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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

当局の差押処分は違法 「なお不足があると認めるとき」の要件満たさず

2018/10/31

 請求人からの相続税の延納申請に対し、A税務署長は平成8年2月27日付で20回にわたる年賦納付を許可し、その担保として請求人所有の土地Bおよび建物Cについて抵当権設定登記を行った。翌年、請求人は土地Bの上に物置を築造した。その後、請求人が相続税の支払いを滞納したため、A税務署長は平成25年1月に納付を督促した。しかし、その後も滞納は続き、A税務署長は同年10月に延納許可を取消し、翌月には滞納国税を徴収するため、土地Bおよび建物Cの差押えを行った。

 平成27年6月、原処分庁はA税務署長から徴収の引継ぎを受け、平成28年7月、請求人の滞納国税を徴収するため、土地Bの上に築造された物置を差し押さえ、差押処分に係る差押登記を行った。この物置の差押処分をめぐり、請求人と原処分庁との間で争いが起きた。

 国税通則法第52条第1項では、税務署長等は、担保の提供がされている国税についての延納を取り消した時は、その担保として提供された金銭以外の財産を滞納処分の例により処分してその国税および当該財産の処分費に充てる旨、同条第4項では、同条第1項の場合において、担保として提供された財産の処分の代金を同項の国税および処分費に充てて「なお不足があると認めるとき」は、税務署長等は、当該担保を提供した者の他の財産について滞納処分を執行する旨、それぞれ規定している。

国税の担保の処分において民法389条1項の適用は?

 原処分庁は、「物置の差押処分は、国税通則法第52条第4項に規定する『なお不足があると認めるとき』になされたものではない」としつつも、「物置は、抵当権が設定された後に土地Bの上に請求人が築造しており、本件土地等を公売で売却した場合、物置が敷地利用権のない状態で残存するほか、物置の所有権の帰すうが判然とせず、買受人は処分等で煩雑な手続きが強いられる。そのため、買受希望者が現れにくく、売却価額も処分見込額より低額になることが予想されるなど、請求人が物置を築造した行為は滞納処分の執行を妨害するもの」と主張した。

 また、「徴収法上は、抵当権の設定後に抵当地に築造された建物を土地とともに競売することができることを定めた民法第389条第1項のような規定は存在しないが、物置が抵当権の設定後に抵当地に築造された建物であることからすると、同項の規定に照らし、物置を担保処分不動産と一括して公売に付すことが認められるべき」とした。

 これに対して審判所は、「本件差押処分は、担保が提供された国税を徴収するために各担保不動産以外の財産である物置を徴収法第47条第1項第1号に基づき差し押さえるものであるから、国税通則法第52条第4項の『なお不足があると認めるとき』の要件を充足しなければならない」と指摘。そして、「物置の差押処分時において、各担保不動産の処分見込額が、滞納国税額を上回ることは明らかであり、物置の差押処分は『なお不足があると認めるとき』になされたものとは認められず、違法である」と判断した。

 また、原処分庁が主張する民法第389条第1項の適用については、「国税の担保の処分においても適用されると解する余地はある」としつつ、「しかしながら、その場合であっても、抵当権の設定後に抵当地に築造された建物を抵当地とともに公売するための差押えは、担保権の実行である以上、国税通則法第52条第1項に基づく担保物処分のための差押えとして行うものであり、徴収法第47条第1項第1号に基づく滞納処分の執行として行うことはできない」として原処分の全部を取り消した。(平成29年10月16日裁決)

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